つらく悲しい体験の記憶は、誰にでもあります。
それが、トラウマになるほどの強烈な体験の記憶を持つ人も少なくはありません。
それが極めて強いマイナスの情動を引き起こしてしまいます。
人が変わったようになるのは、そのような記憶が蘇った時です。
- イヤな経験をしてトラウマになってしまう人
- その経験を乗り越えてしまう人
人には2つのタイプがいます。
その違いは、脳の使い方にあります。
脳が記憶を思い出すメカニズムは、機能脳科学によってかなり解明されています。
そのメカニズムを利用して「イヤな記憶が出てこないようにする方法」の成果を上げています。
この記事を読むことで、自分の記憶をコントロールするための「脳の使い方」を学ぶことが出来ます。
- 過去に起きた悲しい体験
- つらい出来事
から自分を解放して、健やかな人生するための役に立てば幸いです。
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なぜイヤな記憶ばかり思い出されるのか?
記憶は同じ失敗をしないためにある
人間はイヤな記憶をよく記憶するようにできています。
それは、同じ失敗をすることを避けるためです。
なぜかといえば、脳はそこに危険を感じるからです。
そもそも、イヤな出来事を記憶しなかったら、次もまた同じ失敗を繰り返してしまうリスクがあります。
それは、時に生命の危険を伴うこともあります。
だから、私たちの脳は「イヤな出来事」をよく記憶するわけです。
脳のそうした「記憶のメカニズム」は、生命が生き残るために獲得した「非常に大切な能力」です。
でも、そのことによって人間は「大きな苦悩」を抱え込むことになります。
つらい記憶や悲しい記憶によって、人は「過去の出来事に縛られる」ようになります。
そうすると、過去ばかり振り返り「失敗を恐れる」ようになります。
過去に囚われて「後悔」をして「気力を失ってしまう」というようなことが起こります。
海馬と偏桃体がイヤな記憶を増幅させる
記憶を出し入れする仕組みは「海馬」と「偏桃体」の働きによって生み出されています。
- 「海馬」は「短期記憶の貯蔵庫」です。
- 「偏桃体」は「海馬」に働きかけて記憶の出し入れを強めたり弱めたりする働きがあります。
偏桃体が海馬に「強く思い出せ」と命じると、人間は過去の記憶を思い出すようになっています。
海馬と偏桃体の関係は、ダムの放水を実際に操作する人(海馬)と放水をしろと命令をする人(偏桃体)のようなものです。
もちろん、偏桃体に命じられて海馬が思い切り記憶を引っ張り出すだけなら問題はありません。
イヤな記憶が、思い切り増幅して引っ張り出されても、一時的にイヤな気分になるだけです。
問題なのは、海馬と偏桃体が連係プレーを繰り返す結果、イヤな記憶が「前頭前野に認識のパターンを作る」からです。
つらい記憶、悲しい記憶の認識パターンが前頭前野に作られることで
- どうしても許せない
- 思い出すだけで気分が落ち込む
など、イヤな出来事に囚われて「何も手につかなくなってしまう」ような心理状態になることです。
失敗の記憶によって人は成長する
人が長期的に記憶しているのは「失敗の記憶」です。
ここでいう失敗とは、生命を左右するような失敗です。
それを記憶しておかないと、次に同じ状況がやってきたときに危険を避けることだ出来ません。
私たちにとって、失敗の経験ほど重要なものはありません。
私たちの仕事や生活は、すべて失敗の経験によってうまくいくように保たれています。
人間は予期しない出来事を記憶する
たとえば「痛い」とか「熱い」というのは「物理的」な生命の危機です。
それだけでなく、人間は「失敗したらどうしよう」というような実際には起こっていない「情報的な痛み」を感じます。
この場合の情報的な痛みとは「予期に対する失敗」です。
人間がとる行動は、すべて予測に基づいています。
たとえば
- こうすれば、うまく行くはずだ
- あの人はこう考えているに違いない
- 私は他人からこう思われているに違いない
その予測が裏切られ、反対のことが起こると、私たちはその出来事を強く記憶します。
ブリーフシステムで未来を予測する
なぜ人間は「イヤな記憶」「ツライ記憶」に悩まされるのか?
それは、人間が持つ「信念」の問題です。
それぞれの人が持っている「強く信じて疑わない固定的な考え」は、すべてその人の信念です。
- 他人は信用できない
- 私は成功するべき人間だ
など、人は様々な信念を持っています。
「人間愛」などのポジティブな信念もあれば「差別」や「自分さえよければいい」というようなマイナスの信念もあります。
- プラスマイナスを問わず
- それぞれの人が強く信じている固定化されている考え
のことを「ブリーフシステム」と言います。
ブリーフシステムとは
- 私はどういう人間なのか?
- 他人に対してどのようなふるまいをするのか?
などのその人が持っている「認識のパターン」のことを言います。
人は「ブリーフシステム」に従って
- 未来のことを予測して
- その予想に基づいて
あらゆる「選択と行動」をとっています。
そして、もし予想に反したことが起こり「認識のパターン」がずれた時に
「これは覚えておかなければならない」
という風にその出来事が「記憶」に強く残るようになります。
たとえば
「これまでさんざん親切にしたのに裏切りやがって」
という風に「予想に反する相手の反応」が強く記憶されるのも、こうした「記憶のカラクリ」があるからです。
私たちの記憶は過去の失敗の集まり
これは、なぜつらい記憶や悲しい記憶ばかりを憶えているのかに対する答えになります。
だから、つらい体験や悲しい体験が記憶に残るのは、脳の仕組みのせいで「当たり前」のことなのです。
なぜ「成功の体験」が記憶に残りにくいのかといえば、脳にとっては、それが大した情報ではないからです。
なぜなら、「成功体験」を憶えていても、次に起こるかもしれない生命の危機を避けるのの役に立たないからです。
仮に、まったく予想しなかったような「大成功」をしたという記憶も「脳」には強く残ります。
でも、人間が認識する成功とは「自分の予想通りに物事が進んで成功した出来事」です。
予想に反する成功を人は、自分が成し遂げたとは思いません。
脳にとっては、予期に反する出来事の対する評価は「失敗」です。
社会的に見て成功でも、脳の「予想に反した成功」は「失敗」と記憶されるのです。
たとえば
予期しない程の大成功をして喜んでいたとしても
- 次はこんなことが起こるはずがない
- もって慎重に計画を立てなければ
という風に、自分を戒めるようになります。
また、子供の頃に深く愛された記憶も
- 深い愛された子供時代が過ぎ去ってしまったことへの喪失感
- 大好きな両親と離れ離れになってしまったことという感傷の記憶
である場合がほとんどです。
こうした記憶もまた、脳にとっては「失敗の記憶」として分類されます。
つまり、私たちの記憶は「過去の失敗」によって出来ているのです。
小さな失敗を増幅させて脳に記憶させる
「記憶のカラクリ」として「海馬」と「偏桃体」のやり取りがあります。
これは、つらい記憶、悲しい記憶に人が囚われるメカニズムを理解するうえで、とても重要なポイントです。
「海馬」と「偏桃体」は密接にやり取りをしています。
中でも重要なのは、偏桃体が海馬の情報処理を強めたり弱めたりすることです。
つまり、「海馬」が側頭葉から記憶を引っ張り出すときに、「偏桃体」が海馬にその記憶を増幅したり弱めたりさせているのです。
なぜ偏桃体がそのような働きをするのかといえば、生命の危機に対して瞬時に反応するためです。
偏桃体が海馬に記憶を増幅させるように働きかける
たとえば、あなたが山の中でクマに出会ったとします。
すぐに逃げなければ、あなたの命が危険にさらされます。
そういう時に、「偏桃体」は過去の失敗の記憶を増幅して引っ張り出すように働きかけます。
そのおかげで、私たちは一目散に逃げることが出来ます。
なぜなら、多くの人はクマに襲われるというような記憶は持ち合わせていません。
そんな時に「海馬」は、
- 蛇に襲われた
- ケガをしたとかの失敗の記憶
を引っ張り出して代替にします。
それを普通に引っ張り出すと、危機回避のための反応が遅れてしまうため、偏桃体は思い切り増幅するように働きかけます。
「偏桃体」が小さな失敗の記憶を増幅させることができないと、私たちはとっさの行動をとることが出来ないのです。
登校拒否が起こるメカニズム
子供が登校拒否を起こす原因は、学校で「酷いイジメ」にあった「ツライ記憶」がほとんどです。
その失敗の経験を、脳を強く記憶します。
イジメが深刻であればあるほど、子供は
- その体験を深刻に思い出したり、
- 怖い夢を何回も見るようになり、
それが「長期記憶化」していきます。
これが、トラウマです。
こうした状態を続けていると、今度は
- 学校の校門を見たり
- 授業の話をしたり
- 先生や友達の顔を思い出したりするだけで
その子供の体がぶるぶる震えて、呼吸が上がって、汗をかくなどの症状が現れます。
このようにして、引きこもりの登校拒否児童が生まれます。
なぜ校門を見ただけで、このような反応が起きるのか?
それは、「偏桃体」と「海馬」によって記憶が増幅されて引っ張り出されているためです。
校門はトリガーで、それを見た瞬間に子供はいじめられた時のことを思い出します。
その時、「偏桃体」は思い切り記憶を増幅して引っ張り出すように促します。
子供はその効果によって、実際にイジメられたときよりもはるかに強烈なつらさを再体験することになります。
登校拒否はブリーフシステムになる
登校拒否になる脳のメカニズムには、続きがあります。
- 小さな関連情報を見る
- 失敗の記憶の増幅が繰り返される
- 前頭前野に認識のパターンが生まれる
ということが起こります。
例えば、通っていた学校の校門を見るだけで震えるというのを通り越して、他の学校の生徒を見るだけで震えるというような、「認識パターン」が作られていきます。
さらに、学校という言葉を聞くだけで震えるようになります。
これは、その人の「認識のパターン」からくるものです。
「認識のパターン」は、その人の信念であり「ブリーフシステム」です。
たとえば
- 学校も友達もみんな敵だ
- そんな場所には近づきたくない
というような「信念」が登校拒否児童に生まれます。
そうすると、ひとりでいる時でも、学校という言葉を聞くだけで震えるようになります。
ブリーフシステムが人格を作る
前頭前野の「認識のパターン」(ブリーフシステム)は、人が先を予測する「期待のパターン」でもあります。
前頭前野の期待のパターンで、その人の人格が決まります。
人格というのは、その人の「心理的な特性」を表します。
- 優しい人
- 責任感がある人
- 自分勝手な人
など、人はそれぞれ「心理的な特性」を持っています。
そういった心理的特性は、その人が持っている「期待のパターン」から生み出されます。
たとえば
- 「お金が一番大事」という「ブリーフシステム」を持つ人は、「やりたいこと」よりも目の前にある「お金儲け」を優先します。
- 「自分以外の人を幸せにしたい」という「ブリーフシステム」を持つ人は、世のため人のために平然と自分の生命時間を使います。
つまり、その人の人格は「ブリーフシステム」(認識のパターン)によって決まります。
人間の持つ「ブリーフシステム」は一つではありません。
「前頭前野」には、その人が過去の体験をもとに作り上げた「ブリーフシステム」がいくつも収納されています。
それが、その人の「内面の動き」を作ります。
心の中で葛藤が起こるのは、いくつかの「ブリーフシステム」がお互いに矛盾を起こすからです。
トラウマは人格に大きな影響を与える
私たちにとって重要なのは、強烈な恐怖体験によって生み出されるブリーフシステム(認識のパターン)とそれが人格に与える影響です。
人間は、たくさんのイヤなこと、悲しい経験をしてそれを記憶していきます。
失敗を記憶するのは脳にとって重要な働きなので、そのこと自体は何の問題もありません。
でも、過去のツライ悲しい記憶に囚われてしまう人もいます。
それが、人格を歪めてしまうことが往々にしてあります。
その一方で、過去の過酷な体験があっても、それを糧にして、乗り越えてしまう人もいます。
そんな人は、過酷な体験によってどんなハンデを背負わされても、自力で自分の人生を切り開く方法を編み出して、周りの人にいい影響を与えます。
どちらの人生がいいかと言えば、後者の人生だと思います。
それは、比較的簡単に行うことが出来ます。
やり方ひとつで、トラウマになるのを防ぐことが出来ます。
過去の過酷な経験がトラウマ化しなければ、人格に悪影響を与えることはなくなります。
その方法を、お話しします。
トラウマを回避する方法
人間が過去の過酷な体験をトラウマ化させてしまうのは、偏桃体が海馬に促す増幅作用が原因になっています。
そこで、海馬が記憶を増幅して引っ張り出すレベルを鈍感にすることが、つらい体験や悲しい体験を忘れる有効な方法です。
それには、2つの方法があります。
1 その体験を繰り返しすことで馴れる
慣れるというのは、
- それが自分の身に危険を及ぼさないことを
- 体験的にくり返して
- 知る
ということです。
たとえば、自転車の運転が最初は怖くても、徐々に慣れて怖くなくなります。
これは、何回も自転車に乗る体験をして「危険はない」と分かったからです。
偏桃体は、記憶を増幅させて引っ張り出させるような働きをしますが、弱める働きも行っています。
何回か経験して、それが生命の危険ではないと判断すると、その情報には鈍感になります。
偏桃体は、目の前で起こった出来事を+10とか+90とか評価して、過去の記憶をどのくらい強く引っ張り出すかを決めているのです。
2 落ち着いて状況を判断する
たとえば、若い女性が夜道を歩いている時に、後ろからすごい勢いで足音が近づいてきたら、とっさに「怖い」と思うはずです。
でも、それが近所に住んでいる知り合いのおじさんだと分かったら、急に安心します。
「生命の危険」を感じなくなって「偏桃体」の働きが弱まったからです。
後から人が近づいてきて「怖い」と思っている時に、それが「怖い人」でなく「近所のおじさん」だと分かるのは、相当な「冷静な判断」が必要になります。
それを可能にするのが、「落ち着いて状況を判断する」ことです。
「夜道で人に会うのが怖い」という思考のパターンが薄れ、そうした認識の仕方が変わっていきます。
恐怖がなくなり、思考パターンが変われば、恐怖体験の記憶は徐々に薄れていきます。